―机さんと絵の関わりのルーツを教えてください
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幼稚園前から絵を描くのが好きでしたね。周囲からも「絵が上手だね」とよく言われたり、子供の頃の文集を読むと「絵が上手だから大きくなったら漫画家になるんじゃない?」と先生が書いていたりします。小学校に入ると、図工がとにかく楽しい時間で、帰宅してからも何かしら作っている子供でした。実家がメガネのセルを作る町工場をやっていまして、常に職人さんがたくさんいて工具も身近にあるところで育ちました。僕の制作のルーツはそこでしょうね。
―絵や工作が好きだった机少年が、絵を描くことを職業として意識したのはいつ頃でしたか?
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それはだいぶ後でして、30歳前でしたね。高校から大学の頃は全く描いていませんでした。学校も普通高校から一般大学の文系へ進学し、美術の専門教育は受けていません。文章を書くのが好きだったので大学では文芸学科に籍を置き、卒業後は映画学校に行って自主映画を制作したり、その後は演劇制作に関わっていました。こういう制作は全て集団作業なのですが自分は全体の一部分にしか過ぎず、自分がリーダーシップをとってやる場でなかった。自分一人で決めて実行することへの願望が強くなり、「それは絵しかないんじゃないか」という気持ちが芽生えてきたのが20代半ば。そこからですね、具体的に意識をしたのは。とは言え、イラスト公募出しても大した反応もなく、たまに人伝で仕事を貰う程度の日々でフリーターが長かったですね。
―2012年に「ほぼ日刊イトイ新聞」の「ほぼ日マンガ大賞」に応募されていますね。
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はい。ほぼ日を普通に愛読していて公募を知りました。ちょうど絵本のような冊子を作っていて、漫画にも見えなくないのでそれを提出しました。当時が一番精神的に辛かった時期でしたね。「いつまでこんなことしているのかなぁ」って。子供の頃は「何かになる」というのがあるけれど、当時30代半ばの僕には「これからどうしたらいいんだ?」という思いに支配されていました。もう藁にもすがる思いで応募したら何と大賞を頂きまして。泣いちゃいました。「もうちょっと物作りをしてもいいんだ」と思いになりました。
それでも描き続けた
―ほぼ日の漫画連載が2013年から始まりますね。その後の転機はUNKNOWN ASIAですか?
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そうですね。マンガ大賞を受賞して気持ちは楽になりましたが仕事面での大きな変化はありませんでした。「この先どうしよう?」という気持ちがまたやってくるわけです。それでも描き続けてきたのは、今さら就職活動というのもイメージし辛かった。「もうこれしかない、止めるわけにはいかない」と気持ちを切り替えて、苦しくても自信がなくてもやるしかないと決めました。そんな5年間を過ごして2017年にUNKNOWN ASIAに出展しました。
―出展してどうでしたか?
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もう、何から何まで驚きでした。普段のデータ納品のイラスト仕事とは離れて、僕は手に取れる実物をどうやって見せられるものにするか、と思い試行錯誤の末に「絵ジャケ」という作品シリーズで出展しました。そうしたらそこから審査員やレビュアーの方はもちろん、一般の方も手にとってコミュニケーションが始まるわけです。嬉しかったですね。
作家として戻ってこれた
―UNKNOWN ASIA後は、バンコクを皮切りにアジアの都市へアートフェアが続きました。海外で作品を発表するというのは机さんにとってどうでしたか?
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5年前に初めて行った海外が上海でした。旅行だったので楽しかったけれど現地の人と旅行者の僕との間には距離感みたいなよそよそしさを感じこともあり漠然と「今度は作家としてアジアの街に戻ってきたい」思いました。それが叶ったのが感慨深かったですね。バンコク、深セン、香港、どの街でもお客さんのパワーが凄かった。深センでの展示では、UNKNOWN ASIAで審査員賞を僕にくださったEric Chu氏が立派な図録を作ってくださり販売にも大きな弾みとなりました。また、もう一人僕に審査員賞をくださった香港のアートディレクターBenny Au氏は一番かっこいいクリエイティブ基地のPMQという施設での個展で多くのデザイナーやアーティストの方々を紹介してくれた。どの場所も本当に得難い経験ばかりでした。
―それは机さんの気持ちに何をもたらしたのでしょうか?自信につながりましたか?
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それがすごく難しくて。作品や世界観が受け入れられるのは作家冥利に尽き嬉しいけれど、グッと自信が上がるわけではない。この状態はなんなんだろう?という混乱の中にいますね。帰国してからわかると思ったけど、もう少し時間かかりそうですね。ただ、これまでは自分が惹かれるアジアのエキゾチック感やインチキ感を、現地に行ったことが無い想像で描いていた。ところが現地に行ったから知ってしまった部分は前より増えました。ですから、その「雰囲気」を出していくには、さらに自分の想像力を上げていかないといけない。ハードルが高くなりました。
制作を駆り立てるもの
―制作を駆り立てるものや刺激するものは?
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古本屋や蚤の市で見つける海外の印刷物などは刺激がありますね。海外の読めない文字や自分が分からない情報は、印刷物で見たときにもはやそれは文字や情報ではなく僕にとってビジュアルなのです。今回、このインタビューを前にして僕なりに考えて気づいたことがありました。僕は制作途中で失敗の多い作家だと自負していますが、その理由が分かった気がします。まずは自分自身でビックリさせたいのです。コラージュ的な考えとも言えるかもしれませんが、いろんなものを「切り貼り」して新しい世界観を作る途上で、「いや違う」「こうじゃ無い」の繰り返しです。物をアロンアルファで接着したけど「違うなぁ」と、頑丈に接着された物をむしり取り、その跡がカッコよかったり。失敗が僕の制作を駆り立てるのです。UNKNOWN ASIAに出した「絵ジャケ」は失敗から生まれたんですよ。元々は長方形で描いていて失敗したところをカットして正方形にしたらレコードジャケットに見えたという。たまたまなんですよね。がっちりコンセプチュアルではないんです。僕にとって、失敗は大事なものですね。
初めまして大阪
―さて、海外凱旋を経ての大阪初個展です。「雰囲気航空」という机さんらしい摩訶不思議なタイトルですね。個展について少し教えてください。
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「初めまして大阪」という自己紹介も兼ねて、イラスト、立体、ドローイング、掛け軸、ZINEなどバラエティさというか脈略の無さを出して、多面的な方向でご紹介したいですね。秋元机のダイジェスト的な視点を考えています。タイトルについては、僕が表現する未知のもの、行ったことが無い場所、どこか特定できない国、そんな非日常かつ雑多感ある旅の魅力を「雰囲気航空」、読み方は航空でもエアラインでも良いのですが、飛行機に乗ってお連れしたいイメージです。ZINEづくりのワークショップも行いますので、こちらも楽しみです。
―個展ではその世界観とともに、どういう感覚を楽しんでもらえたらと思われますか?
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画面を通してではなく生で観ていただけるので、「目触り(めざわり)」というのも是非お楽しみいただけると良いですね。手触りって言葉がありますよね、あれの「目」版です。「目で撫でる」ような楽しみ方をしてもらえると嬉しいです。
ARTIST PROFILE
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秋元机|Tsukue Akimoto
イラストレーター、マンガ家。
アジアや外国文化に強く影響を受け、奇妙なエキゾチズムを追究し海外旅行の興奮を再構築している。
近年はソウルや台北のアートブックフェアに出展、香港、深圳、台北で個展をするなど国内外で活動の幅を拡げている。TIS会員。 年内は台北での個展、上海でのアートイベントに出展予定。
[主な賞歴]
2018 TIS(Tokyo Illustrators Society)公募 銅賞 / 伊藤桂司 大賞
2017 「UNKNOWN ASIA Art Exchange OSAKA」
審査員 / Benny Au 賞 (香港)、Eric Zhu 賞 (深圳)
レビュアー賞/ 大谷時正 賞 、小吹隆文 賞 、窪山洋子 賞
2012 「ほぼ日刊イトイ新聞」”第二回ほぼ日マンガ大賞”グランプリ、
2013年から「大きいほうと小さいほう」を「ほぼ日刊イトイ新聞」に連載中。
[主な個展]
2019 企画展 『PAPER WORKS』 THE Blank GALLERY (原宿)
2018 個展『Bizzare Souvenir』 diida ART BOX(台北)
個展『Exotic Bazaar』OCT Loft(深圳)キュレーション/Eric Zhu
個展『Strange Market』PMQ (香港)キュレーション/Benny Au
二人展 『JAMAIS VIU /木藤富士夫 + 秋元机』田園城市生活風格書店(台北)
『ART GROUND 03』(バンコク)キュレーション/Jam Factory
企画展 『PAPER WORKS』 THE Blank GALLERY (原宿)
2017 個展『Tsukue Akimoto Exhibition』DEER BOOK SHOP (ソウル)
2014 個展『ドローイングおじさん』FORT by PORT(池ノ上)
akimototsukue.com
協力
ARCHIVES
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秋元机|Tsukue Akimoto
イラストレーター、マンガ家。
アジアや外国文化に強く影響を受け、奇妙なエキゾチズムを追究し海外旅行の興奮を再構築している。
近年はソウルや台北のアートブックフェアに出展、香港、深圳、台北で個展をするなど国内外で活動の幅を拡げている。TIS会員。 年内は台北での個展、上海でのアートイベントに出展予定。[主な賞歴]
2018 TIS(Tokyo Illustrators Society)公募 銅賞 / 伊藤桂司 大賞
2017 「UNKNOWN ASIA Art Exchange OSAKA」
審査員 / Benny Au 賞 (香港)、Eric Zhu 賞 (深圳)
レビュアー賞/ 大谷時正 賞 、小吹隆文 賞 、窪山洋子 賞
2012 「ほぼ日刊イトイ新聞」”第二回ほぼ日マンガ大賞”グランプリ、
2013年から「大きいほうと小さいほう」を「ほぼ日刊イトイ新聞」に連載中。
[主な個展]
2019 企画展 『PAPER WORKS』 THE Blank GALLERY (原宿)
2018 個展『Bizzare Souvenir』 diida ART BOX(台北)
個展『Exotic Bazaar』OCT Loft(深圳)キュレーション/Eric Zhu
個展『Strange Market』PMQ (香港)キュレーション/Benny Au
二人展 『JAMAIS VIU /木藤富士夫 + 秋元机』田園城市生活風格書店(台北)
『ART GROUND 03』(バンコク)キュレーション/Jam Factory
企画展 『PAPER WORKS』 THE Blank GALLERY (原宿)
2017 個展『Tsukue Akimoto Exhibition』DEER BOOK SHOP (ソウル)
2014 個展『ドローイングおじさん』FORT by PORT(池ノ上)
akimototsukue.com
絵しかないんじゃないか